私は6歳から20年間
書道を習っていました。
先生は祖母と同世代で
厳しくも優しい方でした。
「先生も練習するの?」
って聞いた時に
「するよ!練習しないと皆に追い越されるやん」
と言っていました。
追い越せるわけない!って思いましたが
先生が努力しているから
私たちと圧倒的な差をつけたままで
いられたのだと思います。
最初は鉛筆で書く硬筆と
筆で書く毛筆の両方を習っていました。
私は硬筆がいまいちで…
年に一度の展覧会で
あまり良い賞を取れませんでした。
それでも私は両方続けるつもりでしたが
先生は得意な毛筆に集中したほうが良いと
アドバイスしてくれました。
そのおかげで毛筆は
展覧会で一番良い賞をもらって
子供時代を終えることができました。
自分の商売よりも
私のことを考えてくれる先生でした。
初めて筆を持った時は
「一」すらまともに書けませんでした。
墨の量も分からないし
まっすぐ線を引くこともできません。
お兄さん、お姉さんは
普通に文字が書けていて…
恥ずかしかった。
できたら先生に見せに行くのですが…
とても見せられないなぁと思って
ずっと一人で練習していました。
何十人も生徒がいて
先生に見てもらうために
何人もが列をなしていました。
そこに並べなかった私。
他の習い事なら
放っておかれますが
先生は自分から
私の所に来て添削してくれました。
こんなにたくさんの生徒がいて
あんなに忙しいのに
私のことを覚えていて
気遣ってくれたことが嬉しくて…
この先生なら大丈夫って思えました。
それからは
自分からお姉さんたちに交じり
列に並ぶことが出来るようになりました。
先生としても書道家としても
素晴らしい才能を持った方でした。
書道で食べていくために
アートのような
前衛的な書を学んだほうがよい。
あなたが今まで学んだ書は
基本に忠実なものだから
どこに行っても大丈夫ですよ。
最後にそんなアドバイスをくれました。
どんな作風だろうが
書道家として先生には敵わない。
先生みたいな先生にもなれない。
他の先生に付くなんて考えられない。
そう思ったので
書道の世界から卒業しました。
芸術の世界に
何の未練もないと思っていましたが
占いのお客様には
絵を描くのが好きな方が多くて
お話ししていると
また芸術系の習い事がしたくなってきました。
芸の世界は厳しい。
お金を払って
何でこんなに怒られなあかんのって思う。
でもその厳しさの先にある達成感は
何ものにも代え難いです。
そんな経験をさせてくれた
先生と親に感謝しています。
初瀬敬奈